「人は顔を見れば99%わかる 〜フランス発・相貌心理学入門〜」(著者:佐藤ブゾン貴子)を読んで

 今年(2024年)の年明けごろに地上波で紹介された相貌心理学に興味を持ったので一冊本を読んでみた。相貌心理学とは、その人の内面は顔に表れるという前提のもと、顔を客観的データとして分析し、その人の人間性や性格を読み解こうとする学問である。歴史の浅い一過性の流行かと思っていたが、その始まりは1900年代前半のフランスにまで遡る。著者曰く、相貌心理学を極めると、タイトルにある通り顔を見るだけでその人が99%理解できるのだという。

 

 僕個人の所感として、その人の内面や精神性が顔に表れるという意見には大いに賛成である。例えばよく笑う人であれば、普段何気ない顔をしていても自然と口角は上がっているものである。口元以外に分かりやすい顔のパーツを挙げるならば、目元にもその人の個性は表れやすいと言える。目尻が下がっている人はやはり温和な印象を受けるし、実際その通りであることが多い。これらはあくまで僕個人の経験則であり具体的な実験や統計に基づいているものではないが、多くの人が共感するところであろうと思う。

 ただ、その一方で当著書を読了した僕としても、99%というのは過大評価であろうと言わざるを得ない。ただの程度問題に過ぎず細かい表現にこだわるな、というご批判や、僕が当著書の知識を100%実践できていないためではないか、というご意見には逆らうつもりもないが、人の内面がそう簡単に分かると言い切るのはやはり早計だと考える。過度な信用は禁物である。例えば、高い知性を備えた人は多種多様な意見を取り入れ、それらを受容し併せ持つ器の大きい人であるケースが多いが、そのような場合に目や口、頬の肉付きなど数限りあるパターンからその人の複雑な精神性を読み取ることは不可能だと言える。真に有能な人は、遥か昔に孔子アリストテレスが言ったように、バランス感覚に優れ中庸から外れない(両者の言う「中庸」は厳密には異なるが、大目に見ていただけると幸いである)。当著書では時折極端な分析内容が書かれていたように感じる。それでは中庸を極めた人はなんの特徴も面白みもない顔を持っていることになってしまうが、

 とはいえ、批判ばかりしていてもどうしようもないので、当著書の内容を簡潔にまとめていこうと思う。実際に日常生活やビジネスの場で役に立つであろう情報も多く記載されているので興味を持たれた方は批判的精神を持ちつつ一読されることをおすすめする。また、もし読まれる場合は自分の顔の分析をするにあたってバイアスがかかってしまうので家族や友人、恋人と一緒に読んで自分の顔を客観的に見ながらお互いに分析するのが望ましい(それでもバイアスはかかるだろうが)。

 

 最初に断っておくが、相貌心理学は占いの類ではない。また、顔のある部分を切り取って分析する観相学とも異なる。相貌心理学は各パーツに注目はするものの、「部分は全体の一部」という認識のもと、各パーツの特徴から得られた分析結果と顔全体のバランスを総合的に捉えてその人の内面を読み解く学問である。

 この相貌心理学の知見は、どの国出身かによらず、世界中誰にでも応用できるものであると著者は主張する。グローバル化した時代において、海外の方と接する機会は非常に多くなっている。会話の内容や表情からだけでなく、その人の相貌から内面を少しでも理解することができれば、それは大きなアドバンテージになるだろうという思いも著者が相貌心理学の普及に力をいれる理由の一つだ。

 当著書冒頭では、相貌心理学から得た知見をどう捉えるべきか、どう活用すべきか、という点について詳しく述べられておりここについて僕は尊敬の念を示したい。ただの流行に乗ったHow to本であれば、「正面から見て鼻の穴が見えるあなたは自分語りが多いですね」、あるいは「額が広く、額と目で顔の約半分を占めている人は感情よりも思考ベースでで行動します」のように、つまらない雑学が披露されて終わってしまう。当著書はそうではなく、その得られた情報にどのような意味があり、それに対して今後どのように行動を変えていくべきなのか、「いい悪い」の判断ではなくどう理解すればいいかを丁寧に説明してくれている。

 さて、僕が当書から学んだことで最も使いやすいと感じた項目を一つだけ紹介させていただきたい。相貌心理学では、顔のパーツ一つ一つを分析すると同時に顔全体のバランスも見る、というのは先ほど述べた通りである。パーツ毎に細かく分析するのは素人には難しいものがあるだろうが、顔全体のバランスの判断であれば実践しやすい。(これは当書の内容であり、僕の偏見ではございませんので誤解なきようお願いします。)

 顔は三つのゾーンに分割することができる。額の一番上から目の下まで、目の下から唇の上まで、そして唇の上からあご先までの三つである。分析は非常にシンプルで、その人の顔のうち、どの部分が最も広がっているかによって、それぞれ、思考ゾーン、感情ゾーン、活動ゾーンに分類できるというものである。一般に対応する顔の形として、思考ゾーンは逆三角形、感情ゾーンは六角形あるいは丸型、活動ゾーンは四角形である。

 思考ゾーンの人は想像力が豊かで、かつ理解できないことにはモチベーションが湧かないタイプ。ビジネスの場で例えると、仕事の意味が理解できないとなかなか実力を発揮できないが、一度目的が分かれば高い集中力を発揮するような人材である。

 感情ゾーンの人は感情が行動の原動力になることが多く、他者への共感力が高いタイプ。プライベートな話題を共有できるようになると一気に距離が近くなり、一緒に仕事をしていて楽しい存在。

 活動ゾーンは傾向としては日本人には少ないタイプだが、現実主義で、物欲など本能に基づく活動に高いモチベーションを抱く。仕事の場では、例えば成果主義など、自分の行動に目に見える価値が付随する場合に高い成果を発揮するタイプである。

 以上が顔のバランスを分析することから読み解ける3タイプとその概要である。当書では、今紹介した以上のより詳細な説明と、それぞれが仕事仲間ではなく顧客であった場合の対応の仕方なども記載されている。

 

 最初に述べたように、当書の内容を100%信じることには僕は懐疑的である。しかしながら、当書の情報全てを根拠の無いエセ科学と断定するのもまた不健全であると考える。

 重要なのはこの本で得た知識を、自分自身の経験則や他の人間分析の知見と組み合わせてより高い精度の判断を下すことだ。その意味で、実践的で活きた知識を学べる当書に価値があるのは間違いない。



 初めてブログを書き、また初めて本の感想文のようなものを人様の目に晒すので至らぬ点が多々あるかと思いますが、温かい目で読んでいただけると幸いです。